少年法が実名報道を禁止しているのだから、20歳未満の未成年がネットを使う場合は実名使用を禁止すべきじゃないだろうか?ネット上の犯罪(犯罪予告とか名誉棄損とか)が起きた場合は、無制限に実名が拡散する。
— Beyond@悪徳商法?マニアックス (@a902) 2015, 3月 7
また、未成年が実名を公開してしまうのを防ぐため、匿名アカウントに対しては「厨房かよw」「言論に責任もてるなら名前出せよw」「匿名の卑怯者」など、年齢の特定につながる煽りや名前の公開に繋がる煽りを刑法で禁止する必要がある。
— Beyond@悪徳商法?マニアックス (@a902) 2015, 3月 7
Beyondこと吉本敏洋氏をもてはやす人たちも多いようだが、「悪を叩いているからといってその言動のすべてが正当化されるわけではない」ということに気付いていない人を持ち上げるのはほどほどにした方がいいのではないだろうか。
少なくともこの一連の発言には、矛盾がある。順に見ていこう。
1)少年法が禁止している「実名報道」の規制対象にインターネットが含まれるかどうかは微妙なところであるが、吉本氏は含まれると考えているようである。
家庭裁判所の審判に付された少年又は少年のとき犯した罪により公訴を提起された者については、氏名、年齢、職業、住居、容ぼう等によりその者が当該事件の本人であること推知することができるような記事又は写真を新聞紙その他の出版物に掲載してはならない。— 少年法第61条
強調は引用者による。インターネット上の公開も自主規制が行われている。しかし、インターネットに少年法が適用されるかについては見解は分かれる、すなわち、少年法61条は、「新聞紙その他の出版物」への掲載を禁じているのであり、インターネットは新聞紙でも出版物でもないが、出版物について「不特定多数の者が知りえる媒体」を指すという理解に従えば、インターネットも対象になることになる。
吉本氏の一つめのツイートによれば、「未成年がネットで実名を使っていると、犯罪行為が起きたときに無制限に実名が拡散する」のが「少年法の実名報道禁止」に抵触すると考えているようである(実際にはそこまで深く考えていないと思うが)。
とりあえず、ここでは吉本氏の基本的な考えを押さえておこう。
2)「実名が拡散すること」を防ぐために「未成年のネットでの実名使用を禁止する」というのは、話がズレている。
こういう論理矛盾に気付かず、恥ずかしいツイートをしてしまうのが吉本氏の常なのだが。「未成年がネットで実名を一切使ってはならない」というのは、改めて指摘するまでもない暴論である。この投稿がリツイートされても賛同の反響がまったくないというのがそれを裏付けている。
「犯罪を起こした時」に実名が拡散してしまうというリスクがあるからといって、それが実際に起こる確率を考えずに100かゼロかの判断に持ち込むのは誤っている。一律に実名を規制するのであれば、逆に称揚される事態についても実名を出せないということになる。高校球児も、未成年オリンピック選手も、もしかしたら犯罪を犯すかもしれないし、そのときには実名が拡散してしまうのだから、普段から一切実名を出さないように規制すべきだ、というのがおかしいことは、私が指摘するまでもなく明々白々である。
また、実名が拡散してしまうことを防ぐのに、「実名を禁止する」という極端な方法が最善なのかどうかは別問題だろう。実際には、本人が実名を晒していた場合も多いだろうが、拡散自体は、周囲の人間が該当者の実名を投稿もしくはリンクすることによって行われる。吉本敏洋氏が開設し、名誉毀損投稿の温床として有名なYourpediaでも、未成年犯罪者の実名が多々投稿されてきてきたのは周知の事実だ。
未成年者が実名を使用することを禁止するのであれば、その前に他人が未成年者の実名を投稿することを禁止して罰則を設けるべきだし、そういう投稿が可能なYourpediaなどの悪質匿名サイトも一律に禁止されるべきだろう(個人的には2ちゃんねるやYourpediaは犯罪サイトとして禁止することに賛成だが)。ところが、そこは意図的にか無意識にかスルーしている。
実名を使うことと、その実名が流布されることは別次元の話である。流布拡散を防ぐための直接的方策を検討することなく、一足飛びに「ネットに実名が載っていなければ拡散しない」と話を飛ばしてしまう。これを論理の飛躍という。
仮に「ネットに本人が実名を載せなければ、実名は決して拡散しない」というのが100%に近い確率で正しければ、吉本氏の言い分もそれなりにもっともだと言えよう。
しかし、実際には、マスメディアが報じてしまう場合もある(酒鬼薔薇聖斗事件でも、今回の川崎少年殺害事件でも、週刊新潮が報じている)。また、2ちゃんねるでは自宅等を実際に訪問して写真を撮ったりしてくる「スネーク」の出現が後を絶たない。「ネットで実名が拡散することを防ぐためには、本人が実名を載せなければいい」というのは成り立たないのである。しかも、そこに法律の強制力を持ち出してみせる。法律の専門家からしたら、一顧だにする必要のない意見といえよう。
この別次元の話を故意にか無意識にか混同して見せるのが吉本敏洋氏なのである。どうして混同してしまうのか。それは、吉本氏が一方で他人の実名を拡散して名誉毀損行為を行いながら削除依頼が来ると「表現の自由の侵害」として裁判に持ち込み、一方で自分自身が公開し続けている吉本敏洋という実名を他人が書くとプライバシーの侵害だの嫌がらせだのと騒ぎ立てて被害者面をするという、ダブルスタンダードの世界に生き続けているからではないのか。
吉本敏洋氏は、自分の実名を含むtogetterまとめを運営に通報して閲覧不可能にするという「togetter八分」の実行者である。しかし、吉本氏は現在も自らのブログで、自分が本名を公開した記事を掲載し続けている。他人に本名を書かれたくなければ自分が公開を辞めればいい。それをしない人間が「未成年の実名拡散を防ぐために実名掲載を禁止させよ」と主張して、何の説得力があろうか。
3)匿名アカウントに実名表示を強要するような煽りを「刑法で禁止する」という極論
これが極論だとわかっていてわざと人の関心を引くために言っているのか、それとも素なのかわからないが、一般社会でこういう極論ばかり言っている人間は根本的に信用されないか、ある程度の距離を置いて接されるものである。実名表示させようと煽ること自体は、少年犯罪を犯した者の実名を拡散することとの距離が大きい。
- 煽ったからといって実名を載せる可能性は低い。
- 「厨房かよw」が「年齢特定につながる煽り」とは言えない。むしろ相手の精神年齢を揶揄する目的の言葉であり、「厨房かよw」「リアル中坊ですが何か」というやりとりに発展する可能性は低い。数パーセントの可能性を100%禁じようという非論理的・非科学的・疑似科学的発想である。
- 「言論に責任もてるなら名前出せよw」「匿名の卑怯者」と言われて「じゃあ実名を出して戦ってやろう」という事例は当然ながら少ない。裁判戦略上実名を出すハメになった吉本敏洋氏はご愁傷様というしかないが、実際には「実名が偉くて匿名には信憑性がないなどというのは詭弁だ」という論理を持ち出すのが大半だ。こういった煽りによって実名を出した、という直接的因果関係がない限り、意味のない規制となる。
- 以上、すべて「年齢暴露」や「実名掲載を教唆する」ものとしてはあまりにも根拠薄弱と言わねばならない。
- しかも、直接的関係が認められないにもかかわらず、年齢や実名掲載に「つながるかもしれない」発言をすべて刑法(少年法ですらなく!)で禁止しようというのは、単なる言論弾圧・表現の自由の侵害であろう。
吉本敏洋氏は、自分が「過去の犯罪者の名前の載った新聞記事を転載するのは、個人的コレクションであり、それに対して削除依頼を申し立てるのは表現の自由の侵害である」というスタンスでこれまで裁判を戦い続けている。削除依頼を申し立てられたら「表現の自由の侵害だ!」と叫んでおきながら、少年実名掲載を「煽る発言」を根こそぎ刑法!で取り締まろうというのは、一体どういうことなのか。
4)吉本氏の潜在的願望を託した発言だった
吉本敏洋といえばダブルスタンダードの達人、というのはこれまでこのブログで根拠をもって明らかにしてきた歴然たる事実である。吉本氏はダブルスタンダードを使っている。
- A)吉本敏洋氏が、過去の犯罪記事の実名を掲載し、依頼があっても削除せず、削除依頼があった事実をブログに掲載してさらなる不利益を与えることは、社会正義であり、表現の自由であり、個人のコレクションの自由である。
- B)しかし、吉本敏洋氏が自らブログで公開している実名を他の人間が掲載することは、プライバシーの侵害であり、名誉毀損であり、決して許されることではない。
「実名の拡散を防ぐには、本人に書かせなければよい」という発想は、Bと矛盾する。ただし、「拡散する人間=転載者には何の責任もない」という点ではAに沿っているということになるだろう。
しかし、少年の実名掲載に「つながるかもしれない」発言を根こそぎ刑法!で規制しようという発想は、「表現の自由を守るために戦っています」と自称するAの立場の吉本氏のスタンスとも矛盾する。
しかし、この矛盾だらけの発言を理解する方法は一つだけある。吉本氏がされるとイヤなことを(論理性を無視して)、未成年の実名拡散に託して語ったのだ、と考えれば、辻褄が合ってくる。
以下、吉本敏洋氏が考えていたとしてもおかしくない脳内思考のシミュレーションである。あくまでもシミュレーションであって、これが正しいというような幸福の科学的思考は持ち合わせないが、このシミュレーションが吉本氏の発言を理解する一つの方法であると考えて提示する。
「オレは過去の新聞記事を載せているだけなのだ。それに対して削除依頼をしてくる=自分のサイトを損なおうとするような連中が多すぎる。一々裁判で戦わなければならないのが面倒くさい。確かに、裁判などしないで削除すれば済む話なのだが、それはオレの「言論の自由」の敗北になる。
「実名が拡散するのは、オレが転載して保全しているからではない。一時的な掲載で今は記事が削除されているとはいえ、過去にインターネット上に情報を載せた新聞社が悪いのだ。悪いのはオレではなく、新聞社だ。元々掲載したサイトがあるから拡散するのであって、拡散させた人間は何も悪くない。だから、新聞社を非難しろ。
「このことを「未成年者が実名を載せることを禁止しろ」という表現で伝えよう。
「しかし、オレのプライバシーを暴いて攻撃してこようという連中は許せない。実名を載せるなと言ったらいろいろ屁理屈を言ってくる。特に「厨房かよw」「言論に責任もてるなら名前出せよw」「匿名の卑怯者」とかいう言葉は決して許せない。こんな奴らは刑事罰を受けるべきだ。だから「刑法で禁止すべき」だと言おう。
「お、未成年者の実名掲載を法律で禁止しろ、というのと、これは上手く合うような気がする。オレの気に入らない言葉を使う教唆行為も全部、刑法で取り締まってくれたらいいのになあ」筆者が恐れるのは、吉本氏が後出しジャンケンで「あれは皮肉であって、全部裏返し。つまり、実名の拡散を防ごうと思っても無理なのだから、そもそも実名報道規制している少年法がおかしいと言いたかった」などと弁解し始めることである。そんな言い訳が成り立たないことは、ここまで読んで理解できる人にはよくわかることだと思うが、たった二つのツイートでここまでツッコミどころが多い文を書けるa902/Beyond吉本敏洋氏には脱帽するしかない(褒め言葉)。